Walk On vol.54 伝説と歴史の舞台を歩く 白鬚神社(しらひげじんじゃ)

高島市

DATA

  • 歩行距離 約5.8km
  • 歩行時間 約1時間30分

 

 

謡曲「白鬚」に綴られた縁起と湖畔の社

 

 

お釈迦様、薬師如来が登場する物語

 

白鬚神社は近江最古の大社。琵琶湖の湖中に浮かぶ朱塗りの鳥居は、広島県の嚴島(いつくしま)神社を思わせる。車が頻繁(ひんぱん)に行き交う国道161号を挟んで向かいに社殿があり、その背後に比良の山並みが迫っている。祭神の猿田彦命(さるたひこのみこと)は白髪で白い鬚をたくわえた老人の姿をしていることから、延命長寿の神様として人々の信仰を集めている。

 

猿田彦命はもともと比叡山、比良山系の地主神とされる比良明神(のちに白鬚明神と呼ばれる)。観阿弥(かんあみ)作の謡曲「白鬚」に詳しく謡われている。

 

天皇の勅使が白鬚神社に参拝すると、一人の翁(おきな)が湖岸で釣り糸を垂れていて、比叡山の縁起を語り始める。お釈迦様が仏法流布(るふ)の地を探していて、釣りをしている当地の主である翁に「この地を譲ってほしい」と申し出ると、翁は「釣りの場がなくなる」と断ってしまう。お釈迦様が仕方なく帰ろうとすると、東方から薬師如来が現れ「どうぞこの地で仏法を広めてください」とお釈迦様に告げる。その後、比叡山は仏法結界の地に。このときの翁が白鬚明神だったという。そして、勅使にこの縁起を語る翁も実はその明神。やがて翁は白鬚明神となって社殿の中から現れ、天女と龍神をともなって舞いを踊り、天皇の御代(みよ)を祝福するのである。

 

 

「日本遺産」に選ばれた神聖なる水辺景観

 

白鬚神社の縁起は比叡山開闢(かいびゃく)にもつながる壮大な物語でもある。この縁起を知って神社を訪れるととても厳かな気分になる。社殿が琵琶湖に向かって開かれているせいか、この地が信仰の中心として近江全体にパワーを発しているようにも感じられる。平成27年には「琵琶湖とその水辺景観―祈りと暮らしの水遺産」として、文化庁「日本遺産」の構成文化財のひとつに選ばれた。

 

古くからこの風景に惹(ひ)かれて多くの文人墨客(ぼっかく)が訪れている。手水(ちょうず)舎横の石碑には与謝野鉄幹・晶子の「しらひげの 神の御前にわくいずみ これをむすべば 人の清まる」の歌が刻まれている(上の句が鉄幹、下の句が晶子の作であるという)。また、本殿裏の山の斜面には境内社があり、古墳や磐座(いわくら)らしきものも点在している。境内には紫式部や松尾芭蕉など著名な歌人の歌碑・句碑がいくつも立っていて、これらを巡りながら散策するのも楽しい。

 

 

 

西近江路の面影を探して白鬚神社へ…

 

JR近江高島駅から白鬚神社までは、古代・中世の街道である西近江路をたどってみたい。西近江路は都と北陸を結び、多くの人々や物資が行き交ったという。現在、西近江路は国道161号となり旧道と交差しながら続いているが、今回は遊歩道として整備されている「近江湖(うみ)の辺(べ)の道」(大津市の近江舞子と近江八幡市の国民休暇村を結ぶ北まわりの周遊自然歩道)を歩いてみた。

 

湖西線沿いの道を進んで、日吉神社からしばらく国道161号を歩くことになるが、一部国道からそれて旧道(「いにしえの街道 西近江路」の道標あり)に入ると、墓地の中に鵜川(うかわ)四十八体石仏群が現れる。花崗岩石でつくられたさまざまな表情の阿弥陀如来坐像が心を和ませてくれるだろう。白鬚神社からの帰りは、内湖の名残である乙女ヶ池(club keibun2014年9月号掲載)のほとりを散策し、石積みの遺構が残る大溝城跡に立ち寄るのもいい。