しがぎん経済文化センター

近江の旅人と商人たち 講師 宇佐美 英機 先生

「史料から読み解く多様な側面 近江の旅人と商人の実像に迫る」

近江商人や近江地域史に関する古文書、古記録などの興味深い史料を多数収蔵し、調査・研究を行う「滋賀大学経済学部附属史料館」。収蔵品は約17万6千点にも及び、重要文化財に指定されている中世の史料群や滋賀銀行の前身の銀行帳簿なども保管している。この秋から長浜会場で始まる新講座「近江の旅人と商人たち」の講師は、この附属史料館館長で経済学部教授の宇佐美英機さんと、附属史料館専任教員で経済学部教授の青柳周一さんが務める。


 


前半は旅行文化史、観光地域史をテーマに研究している青柳さんが江戸時代の旅行者一人一人にスポットを当て、残されている旅日記を元に、その行動文化を読み解く。


 


「江戸時代は識字率が高く、武士や商人らがさまざまな記録を残しています。旅日記もそのうちのひとつ。当館で保管している近江商人・中井源左衛門家の旅日記には、当主が仙台などに展開した出店の経営状態を見るために定期的に旅した様子が綴(つづ)られ、ここから滋賀と東北地方との歴史的なつながりがわかります。また、彦根の自芳尼(じほうに)という女性は、西国三十三所の旅について記し、高齢ながらアクティブに人生を楽しむ様子が見られます。江戸時代の女性といえば家父長制で家に縛られているイメージが強いのですが、意外にも文化的に活動する一面もあります」と青柳さん。近江から他の地域に関心を持って活発に出かける人たちの存在を知ると、その時代に対する歴史観が変わってくるという。


 


後半は近江商人の研究で知られる宇佐美さん。今回はこれまであまり取り上げられてこなかった近江商人の人物像に焦点を当て、大手商社の伊藤忠、丸紅の創始者で近江商人を代表する伊藤忠兵衛にも迫る。


 


「近江商人にはいろいろな人がいます。例えば猪田清八(いのだせいはち)は近世に起きた愛知川(えちがわ)騒動の責任の一端を取らされ壱岐(いき)島に流されるのですが、亡くなる数日前に文書を書き残します。そこには『若き頃、金はこの世の宝なり』と思って稼ぐとしても老いては『命なければいらぬものなり』という境地が綴られており、常に清らかな道徳観だけで働いたわけではない近江商人の精神も知ることができます。世に出ている近江商人の本には俗説的なものも多いのですが、我々は根拠となる史料を踏まえ、学術的な内容を分かりやすく伝えたいと思っています」と宇佐美さん。近江商人の未整理の史料はまだ膨大にある。今後明らかにされる真実次第では、イメージが変わるかもしれない面白い分野だ。


 


10~11月頃、附属史料館では秋の企画展(一般見学可)が行われる。伊藤忠兵衛家の事業経営をテーマに、これまでの研究成果を報告する。講座と合わせて見れば、近江商人をより深く理解できるに違いない。


講師プロフィール

滋賀大学経済学部教授 宇佐美 英機 (うさみ・ひでき)

1951年福井県生まれ。同志社大学大学院文学研究科博士課程(前期)修了。専攻は日本経営史。近年は近江商人を研究。主な著書は『初代伊藤忠兵衛を追慕する』(清文堂)、『近世風俗志(守貞謾稿)』(岩波文庫)など。

宇佐美 英機

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